これまでの人生、その時期その時期に私なりの研究テーマみたいなものがあったのですが、20代中盤におけるテーマは
「真理とは何か」
でした。
(あ、待って…行かないで…!できればタブ閉じないで、もうちょっと話聞いて欲しい)
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理学部を卒業する時、まだまだ分からないことが多すぎる、もっとちゃんと知りたいと思って院まで行きましたが、大学院で唯一確信を得たことと言えば、
「この世で確かなものなんて、なにもない」
ということ。
そういう不確実で複雑な世界において、私が追い求めてきた真理って何なのだろうか?、
理学的アプローチだと、論理の確かさを期するための論理を積み重ねてばかりで、結局いつまで経っても終わりが見えないし、
そもそもこの世の現象を、人の作った言語(記号や法則)の枠組内で表すなんて限界がありそうだから、それだったら言語化できない形で表すものにヒントがあるのじゃないか?
と思った私は、現代美術の道に進みます。
そして職を得た地中美術館でJames TurrelやWalter De Mariaの作品を毎日毎日見ながら、私は自分に問うていました。
全てを統べる法則性について、考えは進みましたか?
と。
でも、一向に答えは出ませんでした。
今思えば、なぜそこまで思いつめていたのかと思うのですが、若かったんでしょうね。色々な事柄から学びとるよりもぐんぐん純粋に考え込んでしまっていたのは、精神が幼かったのかなと思います(ま、今も大して変わっていませんが)。
兎にも角にも、その後私は李禹煥美術館が開館したおかげで彼の作品を知り(また幸運なことに、実際にご本人から色んな話をお聞きすることができ)、そこで
「あ、真理がそもそも一つかどうか分からないんだ」
という東洋的?考えに改めて出会い、そこから「そういえば時間だって、数字で表されているからいかにも決まった一つの事実のようだけれども本当は流れだよな、それってすごく不思議だな」という方向に転換し、20代後半までは、時間についてが主なテーマになりました。
で、時間について考えていると「流れとは何か、粒子(点)とは何か」ということになってきて、そこでn次元や量子力学について考え始め今に至るのですが、その最近の私にとって滅茶苦茶タイムリーなアーティストが、Anish Kapoor(アニッシュ・カプーア)なのです。
Kapoorはもう私が生まれる前から活躍されているような方ですし、人によっちゃ何を今更という感じかもしれませんが、2000年からこっちの作品量が特に膨大で、歳をとればとる程ますます冴え渡ったアイディアを提示しているように感じています。
日本では金沢21世紀美術館に常設されている作品があるのですが、中でもL’Origine du mondeを最初に見た時は、言葉を失いました。何なんだと。一体これは、何なんだと。もうずーっと永遠に見てられるような、強烈な引力。
そして今回、SCAI THE BATHHOUSEでKapoorの作品展示していると聞いて直ちに訪れたのですが。
(SPOILOR! ここから先は展示の感想なので、見たくない方はスクロールしないでください!)
もうね、やっぱり半端じゃなかった。
まず感覚的なものとして、やはり一つ一つが不思議に満ち満ちていて、吸い込まれそうというか、もうそっちに行っちゃいたいよという風になる。
その次に、これどうなっているんだろう、何をどう捉えたらこんなものが作れるのかという感嘆のため息。
最後に、ただただその無機質さ(一切感情がない)ゆえに救われる感じや美しさを、絶対忘れないために繰り返し繰り返し脳に焼き付ける作業をする。
なんかね、うまく言葉で表現できないのです、Kapoorの作品は。本当に文字通り、言葉が出てこない。
これぞ正に私がアートに対して求めていた答えという感じ。
Kapoorの作品って原色が多いんですが、特に白と黒、そして鏡面がよく使われています。しかし色と言っても、例えば黒は黒って感じがしないんですよ。あれは完全に、闇ですね。そういう意味では、光っていうか、色がその色であることよりも、その色が持つものが感覚に訴えかけてくる。
あとは多元平行宇宙みたいな作品や、これから先に作ろうとしている作品の模型があったのですが、それを見ると、もう私はロンドンに住まなあかんかも分からんね。という感じ。
よく皮膚の表面やらテーブルを見ていると
「この世って、ミクロもマクロも同じような現象で相似形をなしていて、何もかもフラクタルなのでは」
と感じるのですが、今回初めて見た彼のドローイングがこの思考そのものを表しているように思えて、この絵は原子レベルの話なのか、それとも銀河系の話なのかどっちだろう、と思ってすっかり白昼夢を見てしまいました。
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東京に住んでいてまだ行っていない方は、もう時間があるときに〜とか言わず、明日行ってください明日。
そして帰りはカヤバ珈琲のあんみつでも食べながら、Kapoorの作品集で思う存分彼の世界に浸ってきて下さい。
(今日帰りに寄ったら、2FにKapoorの大型本2冊も置いてあった)